新株発行の無効原因~閉鎖会社において株主総会決議を経ない場合の扱い~
最高裁平成6年7月14日判決(判例タイムズ859号118頁)は、小規模閉鎖会社で過半数の株式を有しない取締役Aが、過半数の株式を有する代表取締役Bを追い落とすために、①まず、勝手にAを代表取締役にする取締役会決議があったことにした上で、②Bに招集通知をしないで取締役会を開催し新株発行の決議を得たことにして(当時の法令では取締役会決議で足りた)、Bに隠したまま新株を発行してA(側)が過半数の株式を保有することになった事案で、「(新株の)引受人も代表取締役1人であって新株発行を無効としても取引安全を害しない具体的事情があるとしてもこれを考慮すべきではない」として、B側を勝訴させた1審、2審を覆してA側を勝訴させた。
この最高裁判例は、現会社法が施行する前の判例で、現行法下では成り立たないという考えが有力である(江頭憲治郎「株式会社法」〔第4版〕713頁参照)が、前述の議論でA弁護士が私と違う考えに立った論拠とする判例でもある。
現行会社法の下でも、「新株発行の際の無効原因は限定的に考えるべきだ。」という考え方が出発点にあることに変わりはない。
例えば、公開会社において、取締役会決議を経ない新株発行は無効原因にはならないし、同じく公開会社において、株主総会の特別決議を経ないで株主以外の第三者に有利に新株を発行した場合でも、取締役に対する損害賠償請求の問題は残るとしても、取引安全、法的安定性の見地から、当該新株発行は無効原因にはならないというのが通説である。
3 閉鎖会社における新株発行の際の株主総会の特別決議を欠いた新株発行は無効と考える説が有力
もっとも、閉鎖会社における新株発行の際の株主総会の特別決議を欠いた新株発行は無効と考えるのが有力な考え方である〔江頭憲治郎「株式会社法」〔第4版〕714頁、東京地方裁判所商事研究会「類型別会社訴訟Ⅱ」〔第三版〕610頁、横浜地裁平成21年10月16日判決(判例時報2092号148頁)〕。
上記横浜地裁判決によると、閉鎖会社の場合は新株発行無効の訴えの出訴期間が新株発行の効力発生日から1年と伸長されていることや、公開会社と異なり株主に対し募集事項の通知・公告をすべき旨の規定がなく、株主総会以外に株主が新株の発行の差止めを請求する機会が保障されないこと等が考慮されたようであり、私も同様の考えである。
公開会社の場合に、支配権比率が重要ではないとまでは言わないが、閉鎖会社の場合における支配権比率維持はほぼ常に死活問題で、公開会社のそれとはやはり一線を画する印象があり、一定数の内部紛争を見てきた立場からは、これを有効とする考え方にはなかなか賛同しがたい。