弁護士×中小企業診断士の視点:利用できていますか?事業承継の際の様々な支援制度③~経営者保証ガイドライン~
2.経営者保証ガイドラインに関する事業承継時の特則
(1)従業員承継では、「買取資金の用意」や「経営者保証」といった、金融面での問題も大きなネックになりがちであることは前回指摘した通りである。経営者保証ガイドラインに関する事業承継時の特則は、特に「経営者保証」に関する支援制度である。
経営者保証ガイドラインに関する事業承継時の特則、とは、正確には、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」である。
経営者保証の取扱いについては、平成26年2月に「経営者保証に関するガイドライン」(「経営者保証ガイドライン」)が発表され、金融機関が中小企業に融資を行う場合に、過度に会社代表者等に連帯保証を求めないこと等が基本指針として盛り込まれた。
その中でも、事業承継が、経営者層の高齢化に伴って喫緊の社会的課題になってきたことと相俟って、令和元年12月、経営者保証ガイドラインを補完するものとして、特に事業承継に際して求められる基本指針として、経営者保証ガイドラインに関する事業承継時の特則が発表された(https://www.jcci.or.jp/chusho/tokusoku.pdf)。
主な内容は、
① 金融機関(債権者)側への、事業承継時に前経営者、後継者の双方から二重に保証を求める、いわゆる「二重徴求」の原則禁止の要請、
② 金融機関(債権者)側への事業承継時の後継者への連帯保証の慎重な判断の要請、
具体的には、
(ⅰ)法人と経営者個人の資産・経理の明確な分離
(ⅱ)法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えていない、
(ⅲ)法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得ること
(ⅳ)法人から適時適切に財務情報等が提供されていること、
(ⅴ)経営者等から十分な物的担保の提供があること、
の各要件を満たすかどうか、或いは上記要件の一部を満たさない場合でも、総合的な判断として経営者保証を求めない対応ができないか真摯かつ柔軟に検討すること、
を求めるとともに、
③ 主債務者や保証人に対しても、後継者への連帯保証をしないことを求めていく場合には、
(ⅰ)法人と経営者との関係の明確な区分・分離、
(ⅱ)財務基盤の強化、
(ⅲ)財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示等による経営の透明性確保、
が求められることを呼びかけるとともに、事業承継前後の事業計画を策定・実行する際には、計画の実現可能性を高めるために、外部専門家等のアドバイスを受けることも推奨する、
というものである。
(2)経営者保証ガイドラインや、同ガイドラインに関する事業承継時の特則は、基本指針であり、法的拘束力はない。そのため、個々の事案において、事業承継時の後継者の連帯保証が無いことを約束する支援制度やシステムではない。
しかしながら、事業承継の際に、③主債務者や保証人に対して実現等が求められている、
(ⅰ)法人と経営者との関係の明確な区分・分離、
(ⅱ)財務基盤の強化、
(ⅲ)財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示等による経営の透明性確保、
は、実は、事業承継を行う際には避けては通れない課題をそのまま指摘している。
事業承継の場面を引き合いに分かり易く言えば、求められているのは、
(ⅰ)前経営者の資産と呼ぶべきものは(後継者が継ぐ)会社の資産とは明確に区別する、
(ⅱ)(前経営者が離れた後も)経営が順調に行えるような会社の収益性等を確保する(重視したいのは、貸借対照表よりも損益計算書ではないか。)、
(ⅲ)(前経営者が離れた後も)資金繰りが滞らないようにするために後継者自身が会社の財務状況を正確に把握することと、必要な際に金融機関からすぐに借入できるように、決算書や資金繰り表・残高試算表をきちんと透明にしておくこと(要は粉飾決算をしないこと)、
というものである。
率直に言えば、これらの問題がクリアできないようであれば、そもそも会社を継いでしまって本当に大丈夫か、ということにさえなりかねない。外部専門家を入れた結果、万が一、事業承継を取り止めることになってしまったとしても、うまく行かなくなった事業承継のいわば事後処理(通常は、先代経営者又は後継者から反対当事者に対する損害賠償請求等の形で表面化することになろう)も扱っている立場としては、後で揉めるよりかは双方の時間的・費用的コストは圧倒的に少ないのではないか、というのが率直な思いである。
このように、経営者保証ガイドラインに関する事業承継の特則の利用・検討は、事業承継時の後継者の連帯保証が無いことを約束する支援制度やシステムではないものの、外部専門家のチェック等を通じて、先代経営者や後継者が、個々の事業承継の実現可能性(そこには、事業承継の公正や公平のチェックも入ることになる)を吟味する作業にほかならないともいえる。
(以上)