事業承継コラム

弁護士×中小企業診断士の視点:コロナ禍における事業承継・経営紛争④

2.役員報酬と退職金(の支払い)は株主総会決議事項

役員の解任・退任(や交替)の場面で、一番問題となり易いのがやはり、役員報酬や退職金の支払いの問題だ。

関係が良好であれ対立している場合であれ、基本的には会社側は、1円でも役員報酬が少ない方が助かるし、役員側は1円でも多い方が嬉しい。

会社法上、役員報酬と退職金は、株主総会決議事項であり、具体的な配分などを取締役会や代表取締役に一任することはあっても、総額等について株主総会での承認を得ていない限り、基本的には、その支払いは会社法上は許されない。

残念ながら、中小企業の実務において、会社と役員との間で、役員の登用に際して役員任用契約書が交わされることは少ない。

そのため、会社と役員とが対立してしまった事案の場合、当該役員を解任する前であれ後であれ、役員報酬の支払いを止めてしまっても、結果的に会社側が利する(役員側からすれば損をする)ケースが相当数あるのが現実である。

もっとも、注意してほしいのは、役員報酬を支払う旨の株主総会決議が存在しなくても、役員側から会社等に対する役員報酬支払請求や損害賠償請求が認められる場合があることだ。

株主全員の同意がある場合は、株主総会決議があったとみて良いので、役員報酬の支給は適法であるし(最高裁平成15年2月21日判決)、それと同視し得る事実関係の下では、会社は役員側の請求を拒否し得ないと解されている(東京高裁平成15年2月24日判決ほか多数)。

会社側であれ、役員側であれ、役員報酬や退職金の問題は、紛争対立に直結するデリケートな問題なので、困った場合は早めに弁護士に相談することをお薦めする。

(続く)

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