弁護士×中小企業診断士の視点:コロナ禍における事業承継・経営紛争⑤
2.気を付けるべきポイント
(1)会社側
会社側で、役員の解任・退任(や交替)の場面で、うまく対処するために、一番気を付けてほしいのは、「安易に任期を長くしない」ことだ。
会社側で「役員Aを解任したい」「役員Aを辞めさせたい」という相談を受けたときに、真っ先に私が見るのが当該役員の残任期である。例えば、任期を10年に延長している傍ら、更新してまだ1、2年目、という場面と、任期2年、残任期もあと数か月、という場面とでは、対処方法は当然変わってくる。
後者の場合であれば、あと数か月すれば任期満了とともにそのままご退任いただくことも可能であるので、当該役員に退社していただくことを前提に、アドバイスやその後のスキームを組むことを提案することも出来る。
しかしながら、前者の場合は、当該役員が当然に退社するスキームを組むことは損害賠償請求という法的リスクがあるため、提案はしにくくなる。
会社財産の横領や流用といった、第三者にも明白な違法行為が容易に立証できる証拠を揃えることが出来ているような状況であれば別であるが、そのような場合は決して多くはない。
なかには、わざわざ定款で役員の任期を短くして、当該役員だけ再任しない、という強引なスキームを採る会社も無くはないが、そのような場合であっても、役員に対する損害賠償責任は認められ得る(東京地裁平成27年6月29日判決)。
結局、残任期が長い場合、弁護士としては、当該役員と上手く折り合いをつけて協同していくやり方を、基本的には提案せざるを得ない。
会社にとって、多くの場合、役員任期を長くするメリットは、更新登記の手間が省けるという程度のものに過ぎず、役員と会社が対立するリスクを考えると、「安易に任期を長くしない」というのは、会社が取り得るとても有効な事前策なのである。
(2)役員側
役員側で、役員の解任・退任(や交替)の場面で、うまく対処するために、一番気を付けてほしいのは、「役員任用契約書」(或いは「役員委任契約書」・「役員就任契約書」)を会社側とできるだけ取り交わすことだ。
前回のコラムでもふれた通り、役員側は、役員報酬や役員退職金といった、極めてデリケートかつ重要な問題ですら、株主総会という、会社法上の決議機関の承認を得なければならない立場にある。
もっと分かり易くいえば、従業員は労働法、役員は会社法、といったように、従業員と役員では、適用される法令が根本的に異なる。
役員任用契約書を取り交わさなければ、役員が法的に全く守られなくなるわけではないものの、これが有/無では、役員側が取り得る選択肢は具体的に変わってくるのではないかとも思われる(例えば、不当解任された場合に、役員任用契約書の有/無によって、仮処分手続きによる会社の資産を差押えるかどうか、などは変わってくる可能性がある)。
役員側で、多くの人が役員任用契約書を取り交わさない理由は、①知識として知らない、②役員報酬のことを会社に言いにくい、③契約書のことを持ち出すと、クビになる可能性がある、など、色々と考えられる。
本稿を読んでいただいた方は、①はクリアしたといえるし、②については、基準額や最低額を取り決める程度であれば会社としても応諾しやすいと思われる。最後の③については、そもそも役員に任用するのは会社が当該人物の能力等を評価している場合が殆どで、契約書のことを持ち出すだけで本当にクビになるような可能性は低いと思われる。
これから役員になられる方は、「自分は会社に評価されているんだ」と、勇気を持ったうえで、是非とも「何かあった場合、自分の身は自分で守る」という意識を持っていただければと思う。
(以上)