事業承継コラム

「権利義務取締役」の功罪とその対処法①~内部紛争・トラブル型事業承継の勘どころ~

1.

トラブル型の事業承継や内部紛争の解決方針を探る上での重要な会社法の一つに、「権利義務取締役」(会社法346条1項、351条1項)という規定があります。

これは、代表取締役を含む役員は、法律や定款で定められた役員の員数が欠けた場合等には、任期の満了や辞任により退任した役員は新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する、という規定です。

もう少しかみ砕いて説明しましょう。

例えば、現在の役員の任期が切れて新たな役員を選任しなければならないけれども、主たる株主が亡くなって誰が株を相続するかも定まらないなど、諸々の事情で新役員を選任するための株主総会を開くことすらままならない場合があります(厳密には左のケースでも株主総会を開催することは法理論上可能ですが、割愛させていただきます)。

その場合、新役員が選任されるまで、会社として意思決定が出来なかったり、対外的な会社運営が出来なかったりすると、経営の継続性や法的安定性の観点から、大いに不都合が生じることになります。取引先なども、新役員が選任されていないという理由で、自らの取引が後で無効にされるリスクが生じたりすると非常に困ることになります。

そこで、会社法は、そのような場合に、「新役員が選任されるまで、もともとの役員(通常は直近の役員が対象)は会社の役員として、継続して業務をしなければなりませんよ。在任中の役員報酬など、役員としての権利もきちんと認めてあげるから、役員としての義務も滞りなく履行しなさい。」と取り決めているのです。

会社法346条1項は一般役員の規定で、351条1項は代表取締役の規定で、これらの規定により、もともとの一般役員は一般役員としての権利と義務を、もともとの代表取締役は代表取締役としての権利と義務を、新役員が選任されるまで保有することになります。

このような地位の取締役を、講学上、「権利義務取締役(権利義務役員)」と呼びます。厳密には取締役そのものではないものの、取締役の権利と義務は有する、という意味で、本来の取締役(役員)とは区別されています。

次ページ 「2.この「権利義務取締役」ですが、①取締役としての「権利」と「義務」の両方を」

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