役員の退職金について②~内部紛争・トラブル型の事業承継の勘どころ~
3.役員の退職金でトラブルにならないために
役員の退職金でトラブルにならないためには、会社側・役員側、ともにどのような点に気を付ければよいのでしょうか。
第一に挙げられる点は、特に役員側は、役員の退職金は、(仮に従業員時代にある程度貰えたとしても)株主の多数派でもない限りは法的にはそう簡単に貰えるものではない、ということを十分に自覚しておくことです。
比較的多い相談が、長く役員をやっておられた方や、従前の役員に退職金が支払われているのを見てこられた方、従業員時代に退職金を貰われた方が、「自分も同様に役員退職金を貰えるもの」と勘違いしておられるケースです。
会社側と役員側が対立したときに真っ先に切られるのが役員退職金ですが、前述したように、従業員と役員の退職金は、法的な性質や扱いが全く異なっており、内規(役員退職金規程)があろうが慣行があろうが、そう簡単に認められるものではありません。
役員就任時に会社から退職金を支払う旨の一筆や役員就任契約書にきちんと盛り込むことは大いに意味がありますが、会社と役員との間の実際の力関係を考えると、そのような対応を求めることが難しいことも多いでしょう。
役員報酬は、従業員の報酬よりも高額なケースが多いですが、それには従業員であれば支払われることも少なくない退職金含みの金額であると自覚していただいた方が良いでしょう。
第二に挙げられる点は、上記で少し触れましたが、特に役員側は役員退職金が貰えそうで、かつ、書面化が可能な状況であれば、必ず書面にしておくべきことです。
役員の報酬を退職金で支払うことは、役員報酬で支払うよりも社会保険料の負担が安くなる・利益調整がし易いなど、会社側にも一定のメリットがあるがゆえに、少なからず利用されています。
会社側もそうですが、役員側も、現在または将来に役員退職金を支払うという機運が高まった際には、有耶無耶にすることや口約束を安易に信じることは決して許されないと心得ておきましょう(会社訴訟において、「口約束」が認定されることはほぼありません。)。