弁護士×中小企業診断士の視点⑥: 取締役報酬の減額事例からみる「弁護士×中小企業診断士」の役割①
1.任期中の取締役の報酬を減額できるか
顧問先から、会社が赤字なので任期途中の役員報酬を減額したい、と相談を受けたり、或いは、クライアントが所属する会社から、任期途中の役員報酬を減額した、との通告をなされることがある。
会社が赤字なので役員報酬を減額したい、というのは心情としては理解できるし、ましてや、財務諸表を読み解いた際に、売上高対販管費率が異様に高いなど、赤字の理由が販管費にあると思われる場合、中小企業診断士としては反対しにくいことは確かである。
2.取締役の承認なく一方的に減額することは出来ない
もっとも、任期中の取締役の報酬を、取締役の承認なく一方的に減額することは許されない。
最高裁平成4年12月18日判決は、これを認めた原審を破棄し、「株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。」と判示し、不支給の役員報酬の支払いを会社に命じた。
上記判決が示すように、取締役の報酬額の変更は、会社と取締役間の契約に関する問題であり、会社の経営上の問題として捉えることは不適切である。
このように、取締役の承認なく、任期中の役員報酬を一方的に減額することは出来ないのであって、どうしても減額したいのであれば、当該役員の同意が必要不可欠といってよい(実務的には書面による承諾が必須である)。
3.業務内容を変更しても(減らしても)一方的な減額は許されない
「その分、仕事量を減らすので、その場合は報酬減額できないか」と、食い下がる会社もある。が、それも残念ながら「ノー」である。
上記最高裁の事案は、常勤の取締役から非常勤の取締役に職務を変更したことに伴う措置であり、上記最高裁判決が出るまでは、職務内容の著しい変更がある場合は、取締役の業務執行と報酬の間に対価的不均衡が生じて妥当ではない、という学説もあったが、そのような考え方を一蹴したのが上記最高裁判決である。
実態上も経営上も組織上も、役員といえども、社長の判断には抗いがたいし、労働者のように地位が守られてもいない。職務内容を変更したからといって一方的な報酬減額まで認めるのは、ただでさえ不安定な役員の地位を更に脅かすことになり、いかにもバランスを欠く。法理論的にも、役員報酬は労働者のように時間的な対価関係は無く、受任者として幅広い裁量が認められていることとの兼ね合いもある。
結論として、最高裁の結論は、妥当な判断だと考える。
次回のコラム「弁護士×中小企業診断士の視点⑥: 取締役報酬の減額事例からみる「弁護士×中小企業診断士」の役割②」に続きます。