弁護士×中小企業診断士の視点⑥: 取締役報酬の減額事例からみる「弁護士×中小企業診断士」の役割②
前回のコラム(「弁護士×中小企業診断士の視点⑥: 取締役報酬の減額事例からみる「弁護士×中小企業診断士」の役割①」)の続きです。
4.取締役報酬は本来、任期期間を通じてコントロールすべき問題
上記最高裁判決は、あくまで「任期中の取締役の報酬を一方的に減額することは出来ない」と判断しているに過ぎない。
取締役の改選時や再任時に、役員報酬を見直すことは当然許される。赤字の経営状態を理由としても良いし、赤字でなくとも構わず、基本的にはその報酬額を当該役員が受け入れてまで役員に就任するかどうかの問題である。
また、当該取締役に承諾(書にサイン)させればそれで済む問題、といえば、その通りでもある。実際、同族会社においては、役員重任登記の手間や費用を惜しんで、役員の任期期間を5年以上の長期に設定する会社も相当数、存在する。
が、会社側から見た法的リスクの観点からは、好ましい措置ではないことは否めない。
会社紛争を扱う立場の者からすると、役員の任期を長期化した場合の法的リスクの大きさからすると、少なくとも会社側にとっては、役員重任登記の手間や費用を削減してまで取るべき法的リスクなのかは疑問を覚える。
もちろん、役員側からすると、役員任期が長いに越したことはないが。
5.役員報酬は、基本的には双方の話し合いで決めるべき問題である(減額含む)
各取締役の報酬が、役職(会長・社長・専務・常務など)等によって定められる内規があらかじめ存在し、当該取締役がそれを知って就任する場合、報酬変更について黙示または明示の同意があるとして、そのような場合に報酬の減額を認める学説や裁判例(東京地裁平成2年4月20日判決)もある。
それに倣って、取締役報酬の基準を内規で作成しておく手も無くはないだろう。
もっとも、取締役の報酬は、個々人の能力やその時々の会社の経営状態など、従業員以上に属人的な意味合いが強いのが本来ではあるまいか。
「内規」を作って、役員就任の際に同意を求める(同意書にサインさせる)、というのは、いかにもご都合主義的な感じが否めず、そのような迂遠な対応をするくらいであれば、会社と各取締役との間で、役員報酬の金額や基準等についてきちんと話し合って決めておくことが本筋と思われる。
因みに、福岡高裁平成16年12月21日判決は、役員報酬が取締役の役職が変更された場合に、その報酬を変更後の役職の報酬額にまで減額する旨の内規や慣行までは存在しておらず、当該役員(ら)が内規や慣行の存在を認識して受け入れてきたとは認められないとして、報酬の減額措置の効力を否定した。
殊に中小企業においては、役員の肩書で役員報酬が決まる内規や慣行が存在するというのは例外的な場面と思われるので、妥当な判決である。
次回のコラム「弁護士×中小企業診断士の視点⑥: 取締役報酬の減額事例からみる「弁護士×中小企業診断士」の役割③」に続きます。