株主総会における委任状の取り扱いについて①
(3)委任状勧誘規制に違反する勧誘が行われた場合の決議取消の可否
それでは、上場会社において、委任状勧誘規制に違反する勧誘により委任状が取得されて株主総会の決議が行われた場合、当該決議を取り消すことはできるのでしょうか。
ここでは、解釈上問題になる会社法831条1項1号「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき」を引き合いに、当該決議の取消可能性について見ていきます。
- ア 法令違反といえるのか?
委任状勧誘規制に違反した場合は金融商品取引法に違反しているため、「法令違反」に該当するようにも思えます(実際、そのように指摘する学説もあります)。
しかしながら、会社法831条1項1号をよく読むと、「招集の手続又は決議の方法」が「法令に違反」することを求めております。委任状の勧誘は、それを取得して株主総会において議決権行使をするための前提行為であって、「召集の手続き又は決議の方法」そのものではない、という見方も出来ます。
実際、委任状勧誘規制違反は株主総会の「招集の手続き又は決議の方法」の「法令違反」には該当しないという見解が有力であり、東京地裁平成17年7月7日判決は、会社側が委任状勧誘規制に違反する勧誘を行い、議決権を代理行使して決議した株主総会の取消を求められた事案において、「委任状勧誘規制は、議決権の代理行使の勧誘を行う者が勧誘に際して守るべき方式を定めた規定であり、議決権の代理行使の勧誘は株主総会の決議の前段階の事実行為であって、株主総会の決議の方法ということはできないから、勧誘府令の違反を株主総会の決議の方法の法令違反ということはできない。」と判示いたしました。
- イ 著しく不公正といえるか否か
もっとも、委任状勧誘規制の違反が、株主総会の招集の手続きまたは決議の方法の「法令違反」に該当しないとしても、委任状勧誘規制の重大な違反があり、決議の公正な成立が妨げられた場合等においては、決議の方法が「著しく不公正」であるとして決議取消事由に該当する可能性はあるでしょう。但し、実際に委任状勧誘規制違反を理由に決議取消を認めた裁判例は現時点では見当たらないため、裁判結果の見通しは不透明であると言わざるを得ません。