保有割合別の内部紛争コラム

少数株主が取り得る法的手段②~内部紛争・トラブル型の事業承継の勘どころ~

3.会計帳簿等の閲覧謄写請求で実務上問題となり得る点

(1)請求理由は具体的に明らかにしなければならない


会社法が閲覧謄写の理由を明らかにするよう株主に求めた趣旨は,①会社側が理由と関連性のある会計帳簿等の範囲を知り,かつ,閲覧拒絶の事由の存否を判断するために必要であること,②一般的調査が安易に認められると,会社の営業に支障が生じるだけでなく,営業秘密の漏えい,閲覧株主による会計情報の不当利用等の危険が大きくなることから,具体性のある閲覧謄写目的がある株主に対象を絞ること,にあると言われています。

こうしたことから,会計帳簿等の閲覧謄写を行う株主は,会社がその理由を見て関連性のある会計帳簿等を特定でき,拒絶事由の存否を判断し得る程度に具体的な理由を記載する必要がある,と言われております(最高裁平成2年11月8日判決,最高裁平成16年7月1日判決)。


最高裁平成2年11月8日判決では,「此度貴社が予定されている新株の発行その他会社財産が適正妥当に運用されているかどうかにつき,・・・貴社の会計帳簿及び書類の閲覧謄写をいたしたい」として会計帳簿等の閲覧謄写を請求した事案において,理由の具体性を欠いているとした原審の判断を維持しました。

このようなことから,単に「株主の権利を確保するため」「株主の権利の行使に関して調査するため」であるとか「役員が不正な業務を行っていないか調査するため」であるといった,抽象的な理由付けでは理由の記載として不十分であると考えられております。


一方で,過度な特定や立証を株主側に要求すると,事実上,会計帳簿等の閲覧謄写請求権の行使が不可能になりかねません(∵具体的な不正行為を特定できないからこそ株主側は閲覧謄写請求を行使している)。

最高裁平成16年7月1日判決では,①グループ会社に対して多額の無担保融資をしたこと(※個々の貸し付けは具体的に特定されていた。)が違法・不当なものであり,その適正な監視監督を行う必要がある,②決算期時点において多額の美術品を所有し(※簿価で特定されていた。),同じ企業グループに属する財団法人に寄託するのは会社財産を著しく減少させる(ひいては株主等に回復不可能な損害を被らせる恐れが高い)として,当該美術品の内容・数量,購入時期・金額,購入相手等を調査する必要がある,③グループ会社の株式の売却価格が不当な安価でなされた疑いがあるとして,当該株式譲渡の会計処理の内容や当該株式の取得価格等を調査する必要がある,等を理由として閲覧謄写請求した事案について,具体性を肯定いたしました。

上記最高裁判例なども踏まえ,実務上は,具体的理由の記載例としては,「●年●月●日の決算において計上された××項目の金額▼▼円は不当に高額と思われるから,その内容及び発生理由について調査するため」や「何某が代表取締役となってから,××との取引が急増しており,過去○年間の同社との取引の内容及び推移を調査するため」なども有り得ると指摘されています。

(2)取締役の違法行為そのものの立証は不要

前記の通り,株主の会計帳簿等閲覧謄写請求権は,株主が経営監督権を行使するための前提の権利として認められたものです。

したがって,その行使に際して,「取締役の違法行為」を立証しなければならない,というのは,事実上,会計帳簿等の閲覧謄写請求権の行使を不可能たらしめるものと言えるでしょう。

最高裁平成16年7月1日判決では,閲覧謄写請求の理由として列挙されることの多い,「取締役の違法行為」そのものは,立証の対象にならないことを判示しており,この点も実務上の指針となっております。

(3)閉鎖会社の場合は相続税の支払いなどのため株式の時価算定を目的とする請求も認められる

閉鎖会社の場合,上場会社と異なり,市場によって株価が決定されないため,時価算定のために会計帳簿等を入手する必要があります。

これについては,「閲覧請求権は共益権に基づくものであり,この権利を会社ないし株主全体の利益のためではなく,株主個人のためだけに行使することはできない。調査目的が専ら株式の時価評価をするための資料収集にあるとすれば,個人的な利益のためだけの閲覧謄写請求であるから,許されない。」(東京地裁平成13年3月8日決定,金融商事判例1136号28頁)とする裁判例もありました。

最高裁平成16年7月1日判決では,閉鎖会社における株式等売却のための時価算定目的での会計帳簿等の閲覧謄写も認められることを判示し,以後,この点も実務上の指針となっております。

(4)単なる取締役では会計帳簿等の閲覧謄写を請求することはできない

稀にですが,株主ではない取締役の方から,「社長の違法行為を調査するために会計帳簿等の閲覧謄写を請求することはできないのか。」というご相談をいただくことがあります。

これを認めた裁判例も無くは無いですが(名古屋地裁平成7年2月20日決定),会社法上,取締役に会計帳簿等の閲覧謄写請求権を認めた規定はないこと等から,実務上は否定的にとらえるのが一般と言えるでしょう(「類型別会社訴訟Ⅱ」〔第三版〕662頁)。

お気軽にお電話ください。
相談のご予約はこちら

ご相談・ご予約はこちら お電話:06-6170-8366 電話番号:06-6170-8366 メール相談・来所相談を承ります

多種多様な事案に対応

新世綜合法律相談事務所