コラム

株主は、会社の会計帳簿を閲覧することはできるでしょうか?

Q.株主である私は、会社の会計帳簿を閲覧することはできるでしょうか?

Q.私は、大阪市に住むAというものです。

父親が創業した菓子の製造会社を、兄が引き継いで(兄が代表取締役となって)経営しています。父親がすべての株式を有していたのですが、昨年、父親が亡くなり、兄と私、弟の3人が、均等に株式を相続しました。

 最近、会社の会計が杜撰であるように思います。株主である私は、会社の会計帳簿を閲覧することはできるでしょうか。

A1.条件を満たす株主であれば会計帳簿を閲覧できます。

ア 会社法の規定

株式会社は、会計帳簿を作成し、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を保存しなければならない、とされています(会社法432条)。

会計帳簿については、以下の株主であれば、会社の営業時間内はいつでも、その理由を明らかにして、閲覧・謄写することができます。(会社法433条1項)

① 総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主

もしくは、

②発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主

本件のAさんは、父親の株式を3人の兄弟で分けたということですので、発行済株式の100分の3以上の数を有する株主といえます。そのため、株式会社に対して、会計帳簿の閲覧・謄写を請求することができます。

イ 株主複数人が共同して閲覧請求ができるか

株主一人では、100分の3以上の株式を有していないが、株主複数人で共同して(合計して持ち株比率を100分の3以上として)、会計帳簿を閲覧謄写することはできるでしょうか。

複数人の株主が共同して(持株数を100分の3以上として)、請求することができると考えられています。

A2.会計帳簿の閲覧謄写の手続きについてお話します

(1)会計帳簿の閲覧・謄写時の手続き

ア 請求の理由を明らかにしなければなりません

株主は、請求の理由を明らかにしなければなりません。具体的には、閲覧謄写請求の理由を明らかにする必要があります。

イ 請求の理由は、どの程度、具体的に記載しなければならないか

会計帳簿の閲覧謄写を請求する際に、請求の理由を具体的に明示しなければならない理由は、主の以下の2点です。

  • ①会社が理由と関連性のある会計帳簿の範囲を知り、閲覧拒絶の事由があるかを判断するため
  • ②一般的調査が安易に認められると、会社の営業の支障が生じるだけでなく、営業秘密が漏えいされたり、閲覧した株主により会計情報が不当に利用されるなどの危険が大きくなるため、具体的な閲覧謄写目的がある株主に限って、閲覧謄写をみとめるべき

そのため、会社が請求する理由をみて、関連性のある会計帳簿等を特定することができ、拒絶事由があるかどうかを判断できる程度に具体的な理由を記載する必要がある、と考えられています。

ウ 記載の具体例

具体的理由の記載例としては、

「○年○月○日の決算において計上されている○○項目の金額○○円は、不当に高額であるから、その内容及び発生理由について調査するため」

「取締役○○が代表者となっている○○株式会社との間の取引が急増しているので、過去○年間の同社との取引内容及び推移について調査するため」

といった記載です(山口和男、垣内正「帳簿閲覧請求権をめぐる諸問題」判例タイムズ745号4頁)。

エ 請求理由の裏付けとなる証拠まで必要か

たとえば、取締役の違法行為差し止め請求や、取締役の責任追及の代表訴訟、取締役の解任請求等を行う前提として、会社経理の状況を知るために、帳簿の閲覧謄写請求を行うのですから、請求理由の裏付けとなる証拠までは不要です。

(2)X会計帳簿閲覧・謄写請求があった場合の会社の対応

閲覧謄写請求があった場合、株式会社は原則としてこれに応じなければなりません。以下の事由がある場合にのみ、拒むことができます。(会社法433条2項)

  • ①請求者が、権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求をしているとき
  • ②請求者が、会社の業務遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求しているとき
  • ③請求者が、会社の業務と実質的な競争関係にある事業を営み、またはこれに従事するものであるとき
  • ④会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知りえた事実を、利益を得て第三者に通報するために請求したとき
  • ⑤過去2年以内において、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知りえた事実を、利益を得て第三者に通報したことがある請求者の場合

A3.会計帳簿の閲覧謄写請求で、請求できる書類はどのようなものがあるでしょうか。

(1)会計帳簿の範囲

閲覧することができるのは、「会計帳簿又はこれに関する資料」です(会社法433条1項)。

(2)「会計帳簿」の範囲に関する裁判例

「会計帳簿又はこれに関する資料」に当たるか争われた事例をご紹介します。

ア 法人税確定申告書

(結論)「会計帳簿又はこれに関する資料」には当たらない

(理由)法人税確定申告書は、損益計算書や会計の帳簿を材料にして作成される書類であるため、「会計帳簿」には含まれない
*東京地方裁判所決定H1.6.22

イ 総勘定元帳、手形小切手元帳、現金出納帳、売掛金に関する売上明細補助簿

(結論)「会計帳簿」に当たる

ウ 会計用伝票(仕訳帳に代用されていない物)

(結論)「会計帳簿」に当たる

エ 決算報告書

(結論)「会計帳簿」に当たらない

(理由)決算報告書は、会社法442条に基づいて行うべき閲覧請求の対象文書であるため

オ 法人税確定申告書及び明細表とその作成資料のすべて

(結論)「会計帳簿」に当たらない

(理由)会計処理において直接会計帳簿作成の資料となるものではないため

カ 契約書綴り

(結論)「会計帳簿」に当たらない

(理由)会計処理において直接会計帳簿作成の資料となるものではないため

キ 当座預金照会表

(結論)「会計帳簿」に当たらない

(理由)会計処理において直接会計帳簿作成の資料となるものではないため

ク 手形帳・小切手帳の写し

(結論)「会計帳簿」に当たらない

お気軽にお電話ください。
相談のご予約はこちら

ご相談・ご予約はこちら お電話:06-6170-8366 電話番号:06-6170-8366 メール相談・来所相談を承ります

多種多様な事案に対応

新世綜合法律相談事務所