コラム

取締役会議事録を作成しない場合、どのような不都合が生じますか?

Q. 取締役会議事録を作成しない場合、具体的にどのような場面で不都合が生じるのでしょうか?

A. 実際に問題となり得る場面は、下記のような場合です。

1.取締役会議事録が、重要な意義を有してくる場面は、主に会社に損害(や経営権争い)が生じた場合です。

他の取締役の反対を押し切って、多数派株主兼取締役が、専横的な経営判断を行い、会社に多大な損害を及ぼしてしまうことは往々にしてあります。

例えば、多数派株主の個人的な都合で、会社から多額の金銭を借入れ、返済ができずに倒産してしまった、あるいは倒産しかかってしまった場合、少数派株主や会社債権者としては、会社だけでなく、取締役個人の責任追及を考えるでしょう。

その際、専横的な経営判断を行った取締役の責任だけではなく、特に資力との兼ね合いから、他の取締役への責任追及が検討されることになります。

株主や債権者は、各取締役がどのように判断していたのかを検討することになりますが、その判断の上では、取締役会議事録が重要な意義を有しております。

2.会社法は、競業避止義務に該当する取引・利益相反取引によって生じた会社の損害について、当該取引を行った取締役(会社法423条3項1号)のみならず、当該取引に関する取締役会に賛成した取締役について、任務懈怠(過失)の推定規定を置いています(同項3号)。

また、取締役会決議に参加した取締役は、取締役会議事録に異議を留めない場合は、その決議に賛成したものと推定されます(同法369条5項)。

すなわち、取締役は、例えば多数派株主である代表取締役が、会社から多額の金銭の借入れを行おうとしていたり(利益相反取引)、ライバル(会社)になり得る事業を別に立ち上げようとしていたり(競業取引)する場合で、会社経営上、重大な問題があると考えて反対の意見を持っていたとしても、取締役会議事録できちんと反対意見として明記しておかないと、その後、会社が倒産し、あるいは倒産の危機に陥った場合に、後で会社債権者や少数株主から、代表取締役と共に多額の賠償責任を負わされる危険が生じることになります。

3.取締役は、代表取締役に対して、忠実義務を負うのではなく、会社に対して責任を負っており、ひいては会社に対して利害関係を有する会社債権者や(少数)株主に対しても、責任を負っています。

そのため、上記の通り、個々の取締役は、事情に応じ損害賠償責任を追及されるリスクを負っています。

そのこととの均衡上、取締役会での議論の結果、誰の意見が反映された決議であるかについて、明らかにしておくことが求められているといって良く、かかる観点からも、取締役会議事録を作成すべきことが求められています。

このように、取締役会議事録は、法律上のみならず、実際上も作成すべきことを要請されているといえます。

4.問題がある行為が生じた場合にだけ、取締役会議事録を作成する、ということになれば、多数派株主兼代表取締役も難色を示すでしょうし、実際問題として、立場の強い者に対して、反対意見を述べるのは、大きな勇気が必要になります。

しかしながら、「立場の強い者」と、(法的賠償の面も含めて、)最後まで心中する覚悟があるならばともかく、多くの方はそうではないと思われます。

株式を保有していない取締役や少数派株主の取締役であればあるほど、取締役会議事録の重要性は増すことを、十分に知っておいていただく必要があると思われます。

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