弁護士×中小企業診断士の視点:コロナ禍における事業承継・経営紛争①
1.活況を取り戻す事業承継型M&A
コロナウイルスによる猛威が、相変わらず世間を騒がせている。
私が働く大阪府下では、4月5日より「まん延防止等重点措置」が取られることになり、特に大阪市内の飲食店には午後8時までの営業時間の短縮要請など、一部の業種には非常に厳しい状況に置かれている。
一市民として率直に言えば、コロナウイルスに対する政府の対応は失政と言わざるを得ず、疫病に対する政府の認識の甘さのツケを国民が支払わされている現状にはやるせなさを覚える。
話を戻すと、コロナ禍における事業承継・経営紛争への影響についてであるが、まず、事業承継型M&Aについては、最初の緊急事態宣言直後の去年4~5月は兎も角、緊急事態宣言が終了した去年6月以降において、成約等に大きな制約を受けた実感はない。
やや時期は遡るが、2020年7月29日に㈱バトンズ・大阪支社長の松木秀一郎氏をお招きして事業承継研究会を実施したが、同氏によれば,「緊急事態宣言下においても、(M&Aの)ネットマーケットはむしろ拡大している。」ということだった。
また、㈱日本M&Aセンターの2021年3月期の決算説明資料によれば、前年同期比でみれば同社の同月期の売上は108.7%ということである。成約件数ベースでみても、同社の2020年の最終期は流石に成約件数が大幅に落ちているものの、その後、すぐに成約件数が戻ってきていることが分かる。2021年版中小企業白書においても、10年前と比較してM&Aの件数が急増していることやM&A利用に対する抵抗感が薄れたという当事者が増えたことが触れられている。
後継者のいない売手企業視点でみれば、コロナウイルスをきっかけに後継者が見つかる、などということは考えにくいし、買手企業視点でみれば、コロナ禍における各種施策による給付金や助成金、或いは飲食店に代表される川下産業の停滞などに伴うカネ余りの状況が、「リスク分散」という名の下で、旺盛な購買意欲を掻き立てているのは間違いないだろう。
勿論、売手や買手が、コロナ禍における不況を直撃した業種であれば、コロナ禍をきっかけにM&Aが頓挫するケースもあるだろう。
しかしながら、コロナ禍の影響を受けていない業種や企業は多くあるほか、上記の通り、経営層ではキャッシュがダブついていることと相俟って、全体としては事業承継に伴うM&Aは既に活況を取り戻しているのが現状と思われる。