コラム事業承継

弁護士×中小企業診断士の視点:コロナ禍における事業承継・経営紛争⑥

2.「株式の譲渡・譲受けの問題」で気を付けるべきポイント

(1)承継者側

承継者側で「株式の譲渡・譲受けの問題」で気を付けるべき一番のポイントは、「株式譲渡契約書」をきちんと作成しておくことだ。

私のコラムなどで、「同族会社等判定明細書の記載の変更」などで株式の譲渡を済ませておくことの危険性は何度も触れているが、まだまだ「株式譲渡契約書」を作成しないままに「株式の譲渡・譲受けを完了させた」と勘違いしてしまったがために、親や近親者などの対立した先代経営者や法定相続人から、「お前がその会社を継いだ事実は無い」などと訴えられてしまったという相談は後を絶たない。

株式譲渡契約書が無い場合でも勝訴出来る場合は確かにあるし、証拠資料に不足がある場合でも訴訟等の途中で和解して最悪の事態だけは回避する、ということも確かに有り得るものの、判決になってしまえば、基本的には百かゼロか、という結論の場合が多い。

譲り受けたはずの株式が、実は譲り受けたことになっていなかった、と判断されてしまうと、多くの場合は、その会社の経営権を失ってしまうことになる。

円満に事業承継を進めている時こそ、弁護士に必要書類の作成などの手続きを依頼すべきであることを十分に肝に銘じて欲しい。

(2)先代経営者側

承継者側で「株式の譲渡・譲受けの問題」で気を付けるべき一番のポイントは、株式の譲渡時、或いは譲渡後に、株式譲渡代金・役員報酬その他事業承継に伴う何らかの対価を希望するのであれば、必ず株式の譲渡の際にその対価を明記した書面を作成しておくことである。

相談で多いのが、株自体は無償或いは低額で譲渡・贈与する/したけれど、役員退職金や月額/年額の役員報酬・顧問料などを支払ってほしい(支払う約束だったが、払ってくれなくなった)というものだ。

会社が順調かどうかにかかわらず、或いは親族内承継か親族外承継かにかかわらず、特に税金対策を念頭に、先代経営者側の対価を株の譲渡代金以外の名目で支払うことは非常に多い。

それ自体は、合法的な節税スキームであるので問題はないが、肝心の株式譲渡後の(実質的)対価を口約束で済ませてしまうと、後日トラブルになってしまうと、どうしても不利な立場に立たされてしまうのである。

「何ももらえないなら、株式は返してほしい」というのは、先代経営者側の素朴な訴えであるのは確かだが、状況次第では、「株は返してもらえない、実質的な対価ももらえない」という最悪の結果に終わってしまうケースは勿論ある。

親族であれ非親族であれ、株式を譲り渡した後の会社は、基本的には他人のもの、ということを十分に自覚しておくべきである。

(以上)

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