事業承継コラム

事業承継の3類型とその特徴(メリット・デメリット・ポイント)

前回の事業承継コラム「事業承継の成功・失敗事例にみる法務と経営のクロスチェックの重要性」では、事業承継の成功事例と失敗事例とをご紹介し、弁護士および中小企業診断士の視点から、何が成否を分けたのかについてお伝えしました。

前回のコラムで紹介した事例はいずれも「親族内承継」のものでしたが、事業承継には「従業員承継」や「M&A・第三者承継」という選択肢もあります。本稿では、それぞれの承継方法の特徴をご紹介します。

親族内承継

親族内承継とは、現経営者の子など、親族に事業を承継させるケースをいいます。子がいなかったり、子が経営に興味がない・資質がないなど不適任であったりする場合には、甥や姪、兄弟、子の配偶者を後継者にして親族内承継を行うこともあります。

親族内承継のメリット・デメリット

他の承継方法と比べると、

 ・社内外からの心情的な抵抗が生まれにくいこと
 ・相続等による財産や株式も含めた承継を行いやすいこと
 ・事業承継の準備期間を長くとりやすいこと

がメリットとして挙げられます。また、

 ・後継者の選択の幅が狭い(適任者がいないこともある)こと
 ・複数の親族に承継の意思がある場合に紛争対策が必要なこと

がデメリットとして挙げられます。

デメリットに挙げた「複数の親族に承継の意思がある場合に紛争対策が必要な場合」とは、内部紛争、ないしトラブル型の事業承継の一つであり、当事務所(当職)が得意とする案件です。

当事務所(当職)は、トラブル型事業承継の多数の取り扱い経験を通じ、紛争を防止ないし抑制するための多くのノウハウを蓄積しております。

当事務所(当職)に事業承継を相談・依頼いただいた場合、紛争が現実に発生しているか否かに関わらず、先代経営者から後継者への円滑な事業承継の実現に向けてのサポートをさせていただきます。

親族内承継のポイント

平成初期には7割近くが親族内承継でしたが、近年では半数以下に減っています(参考:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_3_2_1.html)。こうした背景には、事業の将来性に対する不安(子が継ぎたい/子に継がせたい、と思うことが減った)や、価値観の変化(子の生き方や職業選択をより尊重するようになった/公務員・サラリーマンなどへの安定志向が高まった)などがあると思われます。

親族内承継での重要なポイントは、現経営者からみて「親族内に後継者として適任者がいるかどうか」もそうですが、後継者からみて「“この企業は承継する価値がある” と感じられるような企業であるかどうか」です。現経営者が後継者も含めた関係者に対して普段から企業の将来についてのビジョンを示し、人・モノ・金についての備えを怠らず、顧客・取引先・従業員からの信頼を積み重ねているようであれば、後継者にとっても「この会社をなくすわけにはいかない。自分が継がずに誰が継ぐのか」という気持ちも生まれ得ると思いますが、逆もまた然りです。そういう意味では、自社の経営を高め、後継者が「継ぎたい!」と思うような良い会社を目指すことが親族内承継の第一歩とも言えるかもしれません。

親族内承継に際しては、相続時の遺産分割争いや債務問題に加えて、内部紛争(経営権争い)への法的対策にも注意が必要です。事業承継の候補者である長男と次男が対立する可能性がある/現に対立している場合、株式が親族内に分散していたりするなどして支配権争いに発展する可能性がある/発展してしまった場合など、当事務所(当職)には、様々な形の潜在化または顕在化したトラブル型事業承継の相談・依頼が寄せられています。

トラブル型事業承継の対応には、内科治療(日常法務や経営相談)と外科治療(訴訟や仮処分、債務整理など)との両方を見据えた対応が必要な場合が少なくない中、当事務所(当職)は弁護士兼中小企業診断士として独自のノウハウと多数の経験を蓄積しております。

従業員承継

従業員承継とは、親族以外の役員や従業員に事業を承継させるケースをいいます。後継者の例としては、共同創業者や番頭格の役員、部門長などの要職にある従業員が挙げられます。

従業員承継のメリット・デメリット

他の承継方法と比べると、

 ・親族に適任者がいない場合でも社内で承継がしやすいこと
 ・日々の業務の中で経営者としての資質を見極めやすいこと
 ・勤務経験が長ければ経営方針等の一貫性を保ちやすいこと

がメリットとして挙げられます。また、

 ・後継者の選択の幅が狭い(適任者がいないこともある)こと
 ・有償譲渡が多いため、後継者の資力や個人保証面が問題になる場合があること
 ・創業者などの支配株主と経営陣(後継者)との間の紛争対策が必要なこと

がデメリットとして挙げられます。

デメリットに挙げた「創業者などの支配株主と経営陣(後継者)との間の紛争対策が必要な場合」とは、内部紛争、ないしトラブル型の事業承継の一つであり、当事務所(当職)が得意とする案件です。

当事務所(当職)は、トラブル型事業承継の多数の取り扱い経験を通じ、支配株主と経営陣(後継者)との間の意思疎通を図るためのノウハウを有しております。

当事務所(当職)に事業承継を相談・依頼いただいた場合、紛争が現実に発生しているか否かに関わらず、創業者などの支配株主から経営陣(後継者)への円滑な事業承継の実現に向けてのサポートをさせていただきます。

従業員承継のポイント

親族内承継の場合とは異なり、現経営者の意向や関係者への理解をより丁寧に確認・周知しておく必要があります。現経営者の子が小さく、将来の親族内承継への中継ぎで一時的に従業員に承継することを望んでいる場合もありますし、逆の場合もあります。また、親族外の人間が後継者となることに違和感や抵抗感を覚えていないか、社内外の関係者の反応をよく確認し、信用力が低下しないように、かつ、後々内部紛争とならないように、時間をかけて説明・対策を行う必要があります。

中小企業でも、様々な事情で創業者などの支配株主と経営陣が異なっているケースは少なくありません。

支配株主と経営陣とでは、それぞれの利害関係や立場が異なることから、両者の間の紛争対策を念頭に置いた対応が必要です。とりわけ、両者の意思疎通が不十分な場合は、結論が一致していても、相互不信のために当事者間のみでは話し合いが遅々として進まないため、専門家による速やかな関与が望まれます。

支配株主と経営陣の関係が良好な場合でも、将来の親族内後継候補者がいる場合、支配株主の親族の理解が得られていない場合など、創業者一族と経営陣の潜在的ないし将来的な対立が懸念されるケースもあります。このような場合、議決権制限株式や優先株式の発行などを通じて後継者へ経営権や株式を集中させつつ支配株主の親族との利益調整を行う場合があります。また、状況によっては、現経営者が後継者に対して一定期間経営に対して睨みを効かせるために、株主総会での重要な決議について拒否権をもつ拒否権付種類株式(黄金株)を発行する方法も有り得るでしょう。いずれも、会社法についての経験やノウハウが豊富な弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

MBO(ManagementBuyout:役員による株式取得)やEBO(EmployeeBuyout:従業員による株式取得)には、資力が問題になることが多くあります。資金調達の手法としては、①金融機関からの借り入れ、②後継者候補の役員報酬や従業員給与の引き上げ、などが典型的ですが、その際、いわゆる経営承継円滑化法を利用することも有効な選択肢の一つでしょう(経営承継円滑化法については今後のコラムで別途取り上げます)。

また、従業員承継を行う場合、先代経営者による個人保証の処理が問題となることが多くあります。

いわゆる経営者保証ガイドライン(https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/)は、事業承継の場面でも利用可能です。経営者保証ガイドラインでは、一定の場合に、後継者の個人保証を取らないことを推奨しており、中小企業庁の発表によれば、平成30年度の政府系金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績では、「代表者の交代時における対応」1万2907件のうち、「旧経営者との保証契約を解除し、かつ、新経営者との保証契約を締結しなかった件数」は1536件(構成比11.6%)とされています(https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/2019/190628keiei01.pdf)。

資金調達の際の経営円滑化法の利用や個人保証の処理の際の経営者保証ガイドラインの利用などは、全ての事業承継、従業員承継に適用できるわけではなく、一定の要件が求められますので、中小企業診断士や弁護士のサポートを得ながら、金融機関などと粘り強く交渉していくことが大切になります。

M&A・第三者承継

M&A(Merger & Acquisition:合併と買収)・第三者承継とは、第三者へ株式譲渡や事業譲渡を行い事業を承継させるケースをいいます。

M&A・第三者承継のメリット・デメリット

他の承継方法と比べると、

 ・社内以外へも後継者の選択の幅が広がること
 ・現経営者が会社売却の利益を得られること

がメリットとして挙げられ、近年は増加傾向にあります。一方で、

 ・条件が合うような後継者が見つからないこともあること
 ・事業方針が大きく転換してしまう可能性があること

がデメリットとして挙げられます。

M&A・第三者承継のポイント

近年、公的支援機関やM&A専門民間仲介業者が充実してハードルが下がってきており、M&A・第三者承継を選択するケースも増えてきました。公的支援機関では、「起業したい人」と「後継者を探している人」とをマッチングさせる形で第三者による事業承継を実現する施策も行われています(例:京都府の後継者募集企業一覧)。

親族内承継や従業員承継を第一に希望する場合でも、M&A・第三者承継は、有効な選択肢の一つになる場合があります。特にトラブル型事業承継で、利害関係の調整などが奏功せずに社内での承継が難しくなった場合は、M&A・第三者承継を通じて、一挙的な解決を図ることが有効な解決手段となる可能性があります。

当事務所(当職)でも、様々な事業承継の相談・ご依頼を通じ、M&A・第三者承継のノウハウを有しております。

M&Aには会社の全部を譲渡する場合(合併、株式売却、株式交換)と一部を譲渡する場合(会社分割、事業の一部譲渡)とがあります。実際は会社の全部を譲渡する場合がほとんどですが、いずれの場合でも、業績の改善や社内規定の整備などを通じて、企業価値を高めておくことが不可欠です。

また、現経営者の経営理念と後継者の経営理念とが一致しているかどうかは、M&A・第三者承継の成立に欠かせないことはもちろん、その後の古参の従業員からの理解を得て士気の低下や離脱を防ぐためにも重要です。

なお、企業価値の算定のための簡易自己診断表が中小企業庁から発行されていますので、ご参考までにご紹介します(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei20/download/q16.pdf)。各種数値を改善して企業価値を高めることは親族内承継時や従業員承継時でも同様に大切であることは言うまでもありません。

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当職は、2つの国家ライセンス(弁護士×中小企業診断士)を活かした、中小企業法務&経営サポート業務を提供しております。とりわけ、弁護士と中小企業診断士、それぞれのスキルやノウハウを横断的に活かすことが出来る、会社の内部紛争(経営紛争・支配権争い)やトラブル型事業承継の支援を得意としております。

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