コラム

役員の退職金について①~内部紛争・トラブル型の事業承継の勘どころ~

1.はじめに

役員の退職金を巡るトラブルは、古くからある典型的な法的紛争であり、内部紛争やトラブル型事業承継においても、よく問題となり得ます。

本稿では、役員の退職金における基本的な法律の考え方と、トラブルが発生してしまった場合の対処法、役員の退職金においてトラブルにならないための対処法等について検討していきたいと思います。

2.役員の退職金に対する法律の基本的な考え方

~株主総会決議を経ない限りは「もらえない」が大原則~

一定規模以上の会社において、就業規則などで従業員に対する退職金制度を備えている会社は少なくありません。就業規則などで退職金制度を備えていなくとも、慣行で従業員に対して退職金を支払い続けている会社もあります。

このように、従業員の退職金は、(労働基準法から直ちに認められる権利ではないものの、)就業規則などで定められている場合のほか、支払の慣行があると認められる場合にも、会社に対して退職金を請求できることになります〔慣行を認めた裁判例:東京地裁昭和48年2月27日判決(宍戸商会事件)、 東京地裁昭和51年12月22日判決(日本段ボール研究所事件)、東京地裁平成7年6月12日判決(吉野事件)など。慣行を否定した裁判例:東京地裁昭和58年2月28日判決(北一興業事件)など。〕

ところで、役員の報酬は、従業員の場合と異なり、株主総会で承認可決されなければならない、というのが原則であり出発点です(会社法361条1項)。

役員の退職金も、報酬の一種として考えられていますので、株主総会での承認決議が必要と解されています(最高裁第三小法廷平成22年3月16日判決)。

役員用の退職金規定を、従業員に対する退職金規定とは別に整備している会社も相当数見受けられますが、上記の理由から、「株主総会での決議を経ること」を支払いの(発生)条件・要件とする規定を設けているのが一般です。

このように、役員の退職金は、たとえ(役員用の)退職金規定が置かれていたとしても、株主総会決議を経ない限りは「もらえない」というのが大原則となります。

なお、法理論上は、定款で役員退職金額が定められている場合は株主総会決議を経ることなく退職金が貰えることになりますが、そのような定款が置かれている会社は皆無と言ってよいでしょう(少なくとも私はまだ見たことがありません)。

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