役員の退職金について②~内部紛争・トラブル型の事業承継の勘どころ~
1.役員の退職金が支払われない場合の救済策①
~株主全員の実質的承諾等を理由とした信義則による制限~
役員が退職金をもらえるための要件が、「従業員以上にはるかに厳しい」からと言って、会社側の一方的な判断で常に役員の退職金の支払い(約束)を反古にできる、というわけではありません。
下級審判決にはなりますが、代表取締役が一旦退職金の支払いを約束した後に、株主総会決議がないことを理由に支払いを拒否するに至ったという場合に、信義則を理由に退職金の支払いを認めたものが複数見受けられます(大阪地方裁判所昭和46年3月29日判決、京都地方裁判所平成4年2月27日判決、東京高裁平成15年2月24日判決、等)。
「会社の代表取締役の行為に信義則違反が認められる」というだけでは、役員退職金の支払いは認められにくいと思われますが、代表取締役が退職金の支払いを約束したことが株主全員の実質的承諾と評価されるような場合には、株主総会決議がない場合でも役員の退職金の支払い請求が認められ得るでしょう(「類型別会社訴訟Ⅰ」〔第三版〕119頁参照)。