事業承継構図別の内部紛争コラム

事件屋紛いの株式買取業者にご注意を! ― 大阪高裁令和6年7月12日判決が示す警鐘 ―

第1 はじめに

中小企業や同族会社(以下「閉鎖会社」といいます。)では、株主が死亡したり、経営陣との関係が悪化したりした場合に、少数株主が保有する株式の処分を契機に、大きな紛争に発展することがあります。

定款で株式の譲渡制限が定められている閉鎖会社では、株式を自由に市場で売却することができないため、少数株主が投下資本を回収する手段は極めて限られています。

こうした閉鎖会社特有の事情につけ込むかのように、近年、少数株主から安値で株式を買い取り、会社に対して高値での買取りを要求することで利益を得ようとする「株式買取業者」が現れています。今回ご紹介する大阪高裁令和6年7月12日判決(判例タイムズ1530号86頁)は、このような業者のビジネスモデルに対し、弁護士法73条違反を理由として正面から否定した、実務上重要な裁判例です。

第2 事案の概要

本件は、親族経営の会社(以下「X社」)の株主Yが、X社の発行する譲渡制限付き無議決権株式52株のうち、40株を、株式買取業者A社に対して1株式当たり120万円(合計4800万円)で売却する売買契約を、2020年10月に締結したことから始まります。

X社の定款には株式譲渡につき取締役会の承認を要する旨が定められていたため、A社がX社に譲渡承認請求をしたところ、X社はこれを拒否し、別の株主を指定買取人として指定するとともに、売買価格の協議を申し入れました(会社法140条)。その後、価格協議が整わず、裁判所による売買価格決定手続(会社法144条)に発展しました。

A社は、売買契約締結前から公認会計士の意見書を入手し、当該株式の適正価値が1株式当たり356万円超であることを把握しておりました。にもかかわらず、Yにはこのことをまったく知らせず、実質価値の約3分の1に過ぎない120万円で買い取ったのです。Yは閉鎖会社の少数株主として株式の換金手段がなく、その焦りにつけ込まれたともいえるでしょう。

【A社のビジネスモデル(概要)】
① 少数株主から、実質価値(1株式356万円超)を告げずに安値(1株式120万円)で株式を取得
② 会社に譲渡承認請求を行い、承認拒否を誘導
③ 裁判所の売買価格決定手続(会社法144条)で適正価格での高値実現を図る
④ 取得価格と実現価格の差額(約1株式236万円×40株)を収益とする

第3 裁判所の判断

(1)弁護士法73条違反による無効

大阪高裁は、本件株式売買契約が弁護士法73条に違反し、公序良俗(民法90条)に反するものとして無効であると判断しました。

弁護士法73条は、「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。」と定めます。本条の立法趣旨は、主として弁護士でない者が、権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、非弁行為を禁止した弁護士法72条本文を潜脱する行為を行うなどして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止することにあるとされています(最高裁平成14年1月22日判決など)。分かり易くお伝えすると、いわゆる「譲り受け屋」の行為を禁じるもの、といって差し支えないでしょう。

(2)違反と認定された根拠

大阪高裁がA社の行為を弁護士法73条違反と認定した理由は多岐にわたりますが、主に次の三点が重要と思われます。

第一に、A社が株式の実質価値と大きく乖離した低廉な価格で株式を取得していた点です。適正価格(1株式356万円超)と合意価格(1株式120万円)の乖離は3倍以上にのぼっており、少数株主の売却の難しさを最大限に利用した構造といえます。

第二に、A社は取得した株式について会社法上の売買価格決定申立手続(会社法144条)を通じて高値での実現を図っていたという点です。大阪高裁は、A社のビジネスモデルを詳細に検討・認定したうえで、A社が裁判所の手続を収益実現の道具として利用する構造を問題視しました。A社のビジネスモデルを、弁護士法73条が禁止する「弁護士資格もなく、何らの規律にも服しない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入すること・・・(で)、国民の法律生活の公正かつ円滑な営みが妨げられる」(ビジネスモデル)、より具体的には「譲渡制限株式の株主が投下資本を回収する利益を保護するために設けられた売買価格決定手続きの公正かつ円滑な営みは妨げられるというべきである。」と断じたのです。

第三に、A社が、これを業として継続的に行っており、一回限りの取引ではなく営利目的の反復的行為として行っていたという点です。A社の行為実態に照らすと、A社の行為は弁護士法73条の禁じる「譲り受け屋」と言わざるを得ず、大阪高裁は、正面からそのことを認定したのです。

(3)原審との相違点

原審(第一審)はA社の請求を一部認容していたとされますが、実質的には業者側の勝訴といえました。控訴審である大阪高裁はこれを覆して弁護士法73条違反による無効を認定しました。高裁レベルでこのような明確な判断が示されたことは、株式買取業者の行為に対する法的評価として先例的価値が高く、業者側への強い警告となっています。

第4 本判決の実務的意義

(1)少数株主への示唆

本判決は、株式買取業者との売買契約が事後的に無効とされ得ることを明確にしました。売主たる少数株主は、契約無効となれば株式の返還を求められ、すでに受け取った売買代金も返還しなければならないリスクを負います。また、「譲り受け屋」との株売買は、会社側ないし経営陣側との決定的な対立を招きますが、もし敗訴した場合は会社との対立構造に少数株主だけが取り残されてしまいます。

業者はしばしば「株式を適正価格でお買い取りします」「会社との交渉を代行します」などと勧誘してきます。実務上、少数株主が株の処分に難儀することは否定し難いですが、本件のように安易に応じてしまうと、適正価格を大幅に下回った対価で株式を手放した挙げ句、後日契約が無効とされ、会社との深刻な対立構造だけが取り残されてしまうという最悪の事態を招きかねません。株式の売却を検討する際は、「譲り受け屋」の甘言に乗らず、事前に弁護士に相談し、適正価格の確認と取引の適法性に配慮することが重要になります。

(2)会社(経営者)への示唆

会社側にとっても、本判決は、次の2つの意味で重要な意義を持ちます。

第一に、株式買取業者から譲渡承認請求を受けた場合、その背後にある売買契約の内容・経緯を徹底的に精査することで、弁護士法73条違反を主張して契約の無効を争い、業者の請求を退けられる可能性があるということです。

裁判手続きを通じた少数株主からの株式買取は、会社から多額のキャッシュが流出するおそれがあります。本判決により、いわゆる「譲り受け屋」の介入を防ぐ裁判例が現れたことは、会社側にとって、有益な先例的価値を有するでしょう。

もっとも、本件は、事例判決の枠組みを出ない点を忘れてはなりません。会社の事業承継が昨今注目される中で、少数株主の処理をめぐる紛争は、まだまだ発展途上の面が否めません。本判決は、少数株主が株式買取業者に株式を譲渡した場合に、どのような場合でも売買契約が無効であることを示したものでは決してありません。また、事後的な対処には、敗訴リスクだけではなく、弁護士費用・訴訟費用・時間的コストなど、会社側に相当の負荷がかかります。

第二に指摘できることは、少数株主の権利を決して蔑ろにしてはならないということです。少数株主に対しては、深刻な対立を契機として株式が不正な業者の手に渡ることのないよう、少数株主の利益や立場、心情に配慮した対応が必要といえるでしょう。

以上

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