「権利義務取締役」の功罪とその対処法①~内部紛争・トラブル型事業承継の勘どころ~
3.
次に、①取締役としての「権利」と「義務」の両方を有する、というところにスポットをあてて考えてみましょう。
あるAという会社で、現社長(兄)と常務(弟)との間で、相続などを機に、内部紛争ないしトラブル型の事業承継が発生したとします。
現社長派も、常務派も、当然、相手方の一派を抑えこみたいし、場合によっては、追放したいとも考えるでしょう(実際、私の元に相談に来られるケースでは、そのような事態を想定する場合も少なくありません)。
それぞれの陣営で、当然、票読みをし、もし過半数の株式を握ることが出来ていれば、相手方の一派に対して、非常に大きなアドバンテージを有していることになります。
もっとも、どちらか一派が、過半数を握りきれていない場合も少なくなく、その場合は、この「権利義務取締役」の規定が、大きな意味を有することになります。
それは、「権利義務取締役」の規定により、誰を新役員に選任するのかの株主総会決議が成立しない限り、代表取締役を含む現在の役員が、内部紛争やトラブル型の事業承継が生じている期間の会社の運営をなお行っていくことになる、ということを意味するからです。
上記のケースで当てはめると、現社長派は、現状のままでは現社長派も常務派も相手方の一派を追い出すことは出来ません。
このように、「権利義務取締役」は、現状維持の場合、自分の地位が守られている、という意味では「功」となり、相手方の一派を追い出せない、という意味では「罪」となるのです。