コラム

取締役の職務執行停止 ~被保全権利とその疎明~

取締役解任の訴えを本案訴訟とする場合の問題点

①③④⑤については、いずれも問題なく本案訴訟となります。仮処分を申し立てる時期についても、取締役の職務執行を停止することについて、急を要する要な場合には、本案訴訟が開始される前であっても、仮処分の申立てが可能とされています。

しかし、②の取締役解任の訴えについては取締役の職務執行停止を求める時期によっては認められない場合があります。問題となるのは、取締役の解任決議がなされた後であるか否かです。取締役解任の訴えを起こすには、株主総会で取締役解任の決議を行ったうえで、それが否決される必要があるためです。

この否決決議の必要性について東京高裁は、取締役解任の否決決議がなされるまでは取締役解任の訴えの請求権は発生しておらず、解任の訴えを提起するための要件がみたされていないため、解任の訴えを本案訴訟とする仮処分の申立ては認容できないと判示しています(東京高裁決定昭和60年1月25日)。

しかしながら、実際にはこの裁判例のいうように否決決議を待っていたのでは会社に重大な損害が生じてしまうような事態がままあります。このような実務上の要請を受けて、少なくとも取締役解任のための株主総会の招集手続きが取られているのであれば、否決決議がなくとも仮処分の申請や発令ができるという見解も主張されています。この見解によれば、取締役の解任決議がなされる前でも、取締役解任の訴えを本案訴訟として、取締役の職務執行停止の仮処分が認められる可能性がないとはいえません。

以上の裁判例と見解を踏まえると、取締役解任の訴えを本案とする取締役の職務執行停止の申立てのタイミングは、(i)取締役解任のための株主総会の招集手続きの後で、取締役解任の株主総会決議が否決される前、または(ii)取締役解任の株主総会決議が否決された後のいずれかになるといえます。ただし、私見としては、(i)のタイミングを選択する場合には、仮に被保全権利の疎明が認められたとしても、(ii)の時期を待たずに仮処分の発動を求めるべき保全の必要性をより高度に説明・立証しなければならないように思われますので注意が必要です。

お気軽にお電話ください。
相談のご予約はこちら

ご相談・ご予約はこちら お電話:06-6170-8366 電話番号:06-6170-8366 メール相談・来所相談を承ります

多種多様な事案に対応

新世綜合法律相談事務所